取締役会の廃止と登記手続き
株式会社の取締役の退任登記のご依頼を頂きました。この会社は取締役会を設置していますので、取締役は3人以上いなければならないところ、3人いる取締役のうち1人が退任されるということなので、新たに取締役を選任するか、もしくは取締役会を廃止する等の対応が必要になります。
ところで、平成18年5月1日の会社法施行前は株式会社には取締役会の設置が義務付けられていました。その後、会社法下では、公開会社(株式に譲渡制限の定めがない会社)など取締役会を必ず置かなければならないと定められている会社以外においては、取締役会は任意で設置できる機関になりました。
中小規模の会社においては、株主総会を開催することが比較的容易なこともあって、取締役会設置の需要は低い傾向にあります。今回の会社も取締役が2人になった機会に、取締役会を廃止することにされました。
取締役会を設置することは定款に定められていますので、廃止する場合は株主総会で定款変更決議をし、その登記申請もしなければなりません。
更に注意したいのは、取締役会を廃止すると、他の機関設計や定款規程にも影響が及ぶということです。
〇代表取締役への影響
取締役会を廃止すると、原則、全ての取締役が代表権を持つことになります。今まで代表権が無かった取締役にも代表権が付与されます。
もし、取締役のうち一部の者だけを代表取締役に選定したい場合は、次のいずれかの選定方法によることになります(1)株主総会で定める(2)定款で定める(3)定款規定に基づく取締役の互選によって定める
〇監査役への影響
取締役会を廃止した場合は、原則として監査役は必置機関ではなくなりますので、監査役設置の要否を検討します。
公開会社でない会社は原則として、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する定款の定めを置くことが出来ますので、監査役の監査の範囲も検討します。
「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある旨」は、平成27年5月1日から登記事項となりましたので、定款に規定するだけでなく、登記も必要になりました。
ちなみに監査の範囲が会計に関するものに限定されている監査役を設置している会社は会社法上の監査役設置会社には該当しません。例えば会社法第426条第1項の取締役等による免除に関する定款の定めを置くことはできないことに注意が必要です。
〇株式の譲渡制限の定めへの影響
会社が株式の譲渡制限の定めを設けていて、譲渡の承認機関が取締役会となっている場合には、取締役会を廃止するにあたり、承認機関を変更をしなければなりません。譲渡制限の定めの内容は、定款に記載され、登記もされていますので、両方ともに変更が必要になります。
以上の様に、会社法で規定されている事柄は相互に関連し合っています。1人の役員の退任によって、いくつもの検討事項が発生します。また、それに伴った定款変更や変更登記も必要になります。
商業登記においては、登記事項に変更が生じた場合は必ず登記をしなければなりません。登記をしないで放っておいたり、役員の任期が切れたまま放っておくと過料を課されてしまうこともありますので、早めに専門家に相談されることをおすすめします。